憧憬。春/梅昆布茶
 
かなしみをください
あなたの傷口のように深い夜に

ことばをください
書き忘れた遺書のように
端正に綴ってみたいのです

桜が眼に沁みてなぜかせつなく
なにかを教えてくれるのですから

春だけはつまらない感傷を
ゆるしてくれる気がするのです

残された情熱はどこにあるのだろうと
隅々までさぐれば

かすかに貝殻のような音がして
風が嗤って去りましたが

いつか花盗人となって誰彼となく
哀しみをぬすんで参りましょう

いまとこれからの一番だいじなものを
決めたいとおもっているのです

そしてそれに従おうと
考えているだけなのです

あなたの哀しみのなかに
それがあろうかと
おもってもみるのです

もしそれが解ったならば
ぼくの哀しみの
性質がわかろうとも思うのです
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