1960/山部 佳
 
ちはそれほどの度胸もない

真っ黒い砂利を、満載したダンプカーが
何台も何台も、踏み切りを横切る
運転手は、みな同じ顔をして
同じタバコを咥えてハンドルを握っている

大人も子供も犬も猫も
皆、途方もなくかつかつと飢えていた

痩せた細い膝に擦り傷の跡
陽に焼けた顔に灰色の埃を浮かせて
飢えた野良犬と同じ眼をして
薄汚い少年はレールの上を歩いていく

黒い河口の港では、フェリーが待っている
夕日が沈む時刻に、銅鑼が鳴って
黄昏の黒い水面に、白い航跡を引き摺りながら
夜を徹して走る どこか知らない港を目指して

何もかもに饑えて、ぎょろぎょろとした眼の人々は
誰もが無言で、甲板にまであふれる

煤けた同じ顔で、同じ色の半ズボンを穿いて
ビー玉を握りしめた少年たちが
数え切れないほどの少年たちが
港に押し寄せて、夜の支配下に入る

薄汚い少年たちは消えた
時代の扉の薄い隙間に吸い込まれた
知らないふりをしている間に
彼らの行き先を誰もが忘れ去ってしまった

煙突の底から
丸い、真っ青な空を見上げている

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