詩集『十夜録』全篇/春日線香
 
と山崩れの神様のせいさ。ぼくはうれしくな
って老人のようにしゃがんで結婚しようと叫んだが彼女はとおくを
見たまま老人のような声で食えるものはもうないぞ。はてそういえ
ばもうすでに数百年もにんげんを見ていないしこれはよく考えれば
戦争でにんげんたちは滅んでしまったんだなそうかそうかそれじゃ
あこの砂はにんげんの骨かと井戸の底を足先でさらうと女のこえで
けっこんしましょうと言われた。すこしわずらわしい気分になった
けどもうすでに準備はととのっているんだからしかたがないし山頂
の鳥居のところまで重い腰をかついで夢魔にあわせてやることにし
た。そうだねぼくらには理解がひつようだほかのなに
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