詩集『十夜録』全篇/春日線香
で水を掬い上げようとする
けれど井戸はからからに枯れている
水はこの前の宴会の時に
全部飲んでしまったではないか
武将はますますいきり立っている
裏の家は激しく燃えている
手の中でお玉が
俺を使ってあいつを殺せばいい
とささやきかけるが
どうしたものやら
悪所
いたるところで
青い火が燃えている
人を探しにきたのに
こんな悪所に迷いこんで
やっぱり座敷を
出なければよかった
険しい山道を足さぐりで進み
骨の橋を渡って
廃寺を通り過ぎる
火はいよいよ燃えて
前にも後ろにも
気づけば上下にもある
あの中で燃えているのは
鬼の目玉
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