麦踏み/あおば
迫ってくるから
麦踏みの親子は顔を真っ赤にして足を速めるしかないのだが
もう1時間もすれば追いつかれて身体毎バラバラに轢かれてしまうかも知れないと思うと
眼を覆いたくなる光景だ
右方に眼をやると
進水したばかりの異国の航空母艦が新型戦闘機を満載して西の海へと出航するのが見えた
左方に眼をやると
隣家の軒が邪魔して何も見えない
ただコンバインのエンジンの音だけがリズムカルに無機的に音を高めているだけだ
無惨な光景に目を背け窓を閉めたところ
飼ってもいない野良猫が2匹三つ指をつくように両手を揃えて坐っている
僕は何も与えるものがないので狼狽して目を逸らすしかなくなり黙って目を瞑る
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