コクリコ/山部 佳
 
きみの苦しみの前に
私は立ち尽くす
すべもなく立ち尽くす

広い海原に向かって
己の卑小さを知った無力な少年

きみは微笑んで
差し出すのだ いつもと同じ
暖かい夕餉の膳

他愛ない会話の外で
私の悲しみは熟して
細かな罌粟粒になる

ため息に吐き出し
霧雨の中を漂う
灰色の風景に滲む

初夏になれば
緩やかな起伏の丘に
ゆらゆらと赤い花を咲かせる

ふわりとしたサンドレス
白い日傘のきみが
ゆるやかに下る

その日のために
私の悲しみは春の雨に漂う

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