春を装う死の詩/ただのみきや
呆けた斑(まだら)の歌声に
後ろから捕えられ
目隠し外せば 春は
娘姿の老婆
千代紙から蝶
切り抜いては
ふうっと 吹いて
この肥大した冬には
心の資産全てを失った
氷柱(つらら)が刺さった影が日時計の失踪者
頭の中で薄紅色のベルが鳴り響く頃
透明な幾つもの死に方を紐で結わえたまま
あなたのような朝が滅茶苦茶に照らすのを
ただただ忘却したかったのです
ぬるい吐血のような秘密に溺れながら
苦悩だけが上塗りされる記憶のキャンバス
仄暗さから縋りつく父母のような手は
のっぺらぼうのまま切断されて沈黙を引っ掻く
ああ膿んだ月の膨らみ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(20)