母と消火器 など四編/クナリ
その先に何もないかもしれない
何があっても不思議じゃない
上ってしまうまで、誰にも決められない
上ってしまうまで、他のどこにも行けない
もしかしたら、ようやく僕がいるかもしれない。
<耳>
耳を貸して
入りたいの。
<母と消火器>
今思えば、なぜあんなものが家の中にあったのか
おそらく、だまされて買わされたんじゃないだろうか
よく、そういう詐欺のニュースを見るから
赤くて重い消火器を
部屋の隅に立つ、意外に重いやつを
よく横倒しにして
ぐわんぐわんと音を立てた
なぜそんなことをしょっちゅうするのかと
そんなことをして何が楽しいのかと
何回倒した後にも
同じように叱っては
また元通りに直される消火器
もう倒したりしない
元に戻してくれる人が
もういないから
そんなことをして何が楽しいのかって
こんなにも楽しいことは他にないでしょう
あなたがいたのだから。
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