【HHM2参加作品】詩の入り口に立つためにー『母乳』ちんすこうりなー/深水遊脚
しい悪役が当てられ、その悪役が期待通りの悪を演じる。悪役が一見善人にみえるという古典的な変化球もあるけれど構造は同じだ。反感も、同情も、目に見える悪役が吸収してくれる。この詩はそうはなっていない。主体は謎のままであり、もし具体像を作り上げるなら、想像するしかない。必ずしも無理に具体像を作り上げる必要はないし、問いの主体についての具体的な描写がないことは、この詩の欠点ではない。私はむしろ、この詩の魅力だと考えている。書かれない言葉には、書かれない理由があるのだ。「平らな胸」で、たとえば胸の小さい女性に問いの主体の具体像を絞り込むこともできるかもしれない。でも、わからないほうが気味の悪さ、怖さが引き立
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