303号室/イグチユウイチ
塞がった窓から漏れる強い日差しで、すべてが 逆光になるんだ。
アパートの天井の 薄汚い染みが、表情の無い 人の顔のように見えて、
何だか とても 落ち着かないんだ。
硬い靴底と 硬い床の間で、いちいち 砂が ずれるんだ。
閉め切られていた部屋の空気はまるで 保存液に浸されていたみたいで、
やわらかく気化した溶剤を吸っているような
ひどく 憂鬱な気分になるんだ。
扉の脇に落ちていたプレートで、303 を見つけたんだ。
マットレスだけの古いベットには 変色した汗染みの跡があって、
それが 身体から溶け出したものかと思うと、
熱く乾いた喉元が 酸っぱく込み上げそうになるんだ。
何もかも 崩れそうなのに、あまりにも 静かすぎるんだ。
耳の奥の 大きな空洞が 痺れるくらいに張りつめていて、
今にも 蓋が浮きそうなんだ。
なぁ、
お前 どこに行っちまったんだ。
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