寂寥/山部 佳
濃密な生気に溢れた暮色
童女の細い眉は西に沈んだ
夕映えの桃のその向こう
故郷は消えようとした
風は何も語ることなく
不意に吹いては運び去ろうとする
置き場所のない甘い記憶を…
それは捨て去るべきものか?
春が思い出させる
分かれ道の先にあったかも知れない
別の世界の雑踏やにぎわい
故郷は一歩退いた
登り来た長い坂道の果てで
風景は縮んで拒否する
私の置き場所はもうないのだと
闇に飛ぶ鳥がそう告げる
春の濃密な闇に立ちすくんで
芳香を消そうとでもするかのように
紙巻煙草に火を点ける
そして私は下っていく
その坂道を
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