円滑水槽/こうだたけみ
ミヘビのように優雅にのたうつ列車。テトラポットのフジツボよろしく押し合い圧し合い群がる屋根。
男はすでにそこの住人の心づもりでもって、少し退屈そうな横顔で鼻の頭を撫でる。脂を拭ったその指が、横に逸れ、円を描くように頬をなぞり下唇まで達し、その厚みを勿体ぶって確かめた。と思うと、無造作に爪を立て引き千切った。
足下のペダルは重さから解放され、三輪車は少しずつ加速しながら今、屋上のアンテナを擦める。歩行者用信号機を青、赤と見て終いには、横断歩道の白と黒にその側面を預けた。生ゴミの詰まった段ボール箱のように、男と箱型三輪車が往来の真ん中を陣取って、駆けつけた警官は、三分以内に交通整理を開始する。
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