円滑水槽/こうだたけみ
苦渋に満ちたその顔を男は上げられず、休息をとるためとはいえ、瓶に詰めて保存していた『暫くの間』を使い切ることになるとは思いもよらず。さらにと求めて手探るが、あるのは潮の香ばかり。車体は喘息持ちの子供の胸の音のように、セイセイと隙間風。
だが、もうじきである。身体は重く両肩は下がるが、男の胸は高鳴った。焦がれた町並、人の波。陽を照り返すアスファルトと歪みを映す高層ビルの鏡窓。他を拒み続ける渋滞の大通り、そしてそれらを見渡せる歩道橋の上。
男は踏む。全体重を踏み込む毎に交互に一方の足に掛け、小さな車輪を持った箱型三輪車で空間を噛んでいく。見える、見える。血管のように張り巡らされた線路をウミヘ
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