靄/山部 佳
 
私の春は
淋しさを引きずっている
軒下に忘れられた草履は
雨に濡れたまま

旅は何を残しただろうか
心の破片を握り締めた時の
右手のひらについた傷
流れた血は土が吸った

白樺の林をひらひらと
うす闇に蝶が舞い去る
きらきらと鱗粉は後を追う

破片はしゃらしゃらと小気味よく
小さな流れにのって遠ざかる
残された私は春に埋もれる

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