卒業/佐野権太
制服を仕立てにいくと言って
行ってしまった
トイレや脱衣所の扉が
足音に反応して閉められる
ほろにがい痛みをともなう
(バタン、カチャ
ちゃんと閉めなさい、なんて
言ってたのは
いつまでだったろう
ときおり
おとうさん、なんていうから
辺りを見まわしてしまう
通り過ぎてゆく風
つかのまの
複雑に交ざり合った気持ちが
ちいさく舞いあがって
なあ、パパは
いったいどこへ行けばいい
ぽっかり空いたリビングの
出窓に
晴れやかに笑っている
まだ幼い頃のおまえに
添えてみる
卒業、おめでとう
こんな空色の季節を
きっと
さくらって言うんだろう
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