手/ストーリーテラー
夕陽へ向かう電車の中、女の手を見ていた。
窓際に座る、若い女の手だった。
「今さっき月を砕いてきたの」と手は語った。
それほど、白く、強く、内側から光っていた。
青い血管は、空や海や、まっすぐな夏の朝を思わせ
静かに清らに、私の頬に温度を運んだ。
手は、時を止めながら自分だけ息づいていた。
――― 良い聖母(はは)になるかもしれない。
それとも、もうそうなのかもしれない。
夕陽に照らされ、手はいよいよ美しい。
音を失い、レールと車輪の摩擦がひどく滑稽だ。
この手の意思は、世界で最初の感情である。
愛は美しいのか、美しい
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)