手/ストーリーテラー
 
夕陽へ向かう電車の中、女の手を見ていた。

窓際に座る、若い女の手だった。

「今さっき月を砕いてきたの」と手は語った。

それほど、白く、強く、内側から光っていた。

青い血管は、空や海や、まっすぐな夏の朝を思わせ

静かに清らに、私の頬に温度を運んだ。

手は、時を止めながら自分だけ息づいていた。


――― 良い聖母(はは)になるかもしれない。

それとも、もうそうなのかもしれない。


夕陽に照らされ、手はいよいよ美しい。

音を失い、レールと車輪の摩擦がひどく滑稽だ。

この手の意思は、世界で最初の感情である。

愛は美しいのか、美しい
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