雛人形は海を渡らない/夏美かをる
 
げるよ」
「その歌なら知ってる。
 日本語の幼稚園の先生が教えてくれた」
「じゃあ、歌おうか?」





やがて遺言通りに流されるであろう
私の白い欠片が
ある春の日に息を吹き返す瞬間

あなた達の愛くるしい娘達の
透き通った歌声を
海風が届けてくれるというのなら

私はきっと故郷(ふるさと)の海に還っていけるだろう





雛人形は海を渡らない

だけど 和の国の美しい旋律は
一瞬で天空を超え
私の唇から娘達の唇へと注がれていく

イースターバニーの住む国で
その唄が永久(とわ)に歌い継がれていく夢を
弥生の曇り空にそっと飛ばす

今日は一七時間遅れの雛祭り

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