雛人形は海を渡らない/夏美かをる
雛人形は海を渡らない
「今日は雛祭りよ」
「雛祭りってなあに?」
童話を聞かせるように
雛祭りの話を聞かせる
「ふ〜ん」
それはまるで
おとぎ話よりも遠い世界のお祭りごと
女雛の神秘的な笑みに
底知れぬ畏れを抱いていた私のこの血は
娘達の中で薄まって
そのまた子供達の中でさらに薄まって
やがて一滴も残らず
取って代わられるだろう
春には夢中でイースターバニーを追いかける血に
雛人形は海を渡らない
だから私はタブレットを取り出す
「ほら、これが雛飾りよ」
「ふ〜ん」
「雛祭りの歌を教えてあげる
[次のページ]
戻る 編 削 Point(18)