掌編「悪夢」/イナエ
 
して、ぼくは地上に出ることを許されているのだ。この機会に地上の様子をぜひ見たい。
    * * *
 山頂から眺める風景は、かつて、人間が野生動物だったころの郷愁をわきたたせる。はるか下方の広い草原を、山羊が群れてる。大雨の都度、流域を変える川が、ゆったりと草原を横切っている。

 群れていた山羊がいっせいに駆け出し、数匹の犬の群れが追う。ここでは、喰うための殺戮が繰り返されているのだ。仰いだ空に、犬鷲がゆったりと舞う。ぼくは急いで地下に下りた。ここで、獣たちの餌になるわけにはいかない。すべては人類繁栄のためだ。

 ロボットが、エレベーターで下りたぼくを、にこやかに迎え、消毒室に案内する。ぼくが、人間の形をしていたのはここまでだ。   完
 

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