掌編「悪夢」/イナエ
 
、どの田も給水管が配備され、バルブを開ければ必要なとき必要なだけの水が流れ出すのだ。
* * *
 まるで、田の番人のようなバルブを見ているうちに、ぼくの夢想が始まる。
 山間に巨大なドームがいくつも見えてくる。中には人工太陽の光にあふれ、水耕栽培の棚がいくつも階層になって広がり、丈の短い稲が豊かに実った穂を垂れている。

 工業化する農村。野菜がハウスで生産され、蜜柑が温室で生産されるように稲もドームで生産される。風力と太陽光を電力に変えて、水と温度を管理も容易であった。年中管理された土地は二毛作三毛作も夢ではない。生産高の効率化を考えれば、土地は二一世紀の農場の三分の一か
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