されど、死ぬのはいつも他人/藤原 実
 

   この記号の不変の同一性を信じて疑わない。ところが、いま、たまたま《半開き(ア
   ジャー)》という言葉と《壺(ア・ジャー)》という言葉の《音》が同じであるという
   偶然性のために、《ドア》は一挙に同一性を失い、《壺》に変身してしまうのである。
   この魔術はいわば三次元と二次元に股をかけたところに成り立っている。つまり、わ
   れわれはふつう《音》が《もの》に裏打ちされた厚味のある三次元世界に住んでいる
   のだが、ここでは両者を結ぶ必然的と見えた絆は断たれ、世界は一瞬平っべったい 
   《音》だけの二次元世界に変り、次の瞬間、その《音》を回転扉としてさっきとは別
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