饒舌な散歩/
 
雨はなぜ私をすり抜けていくのか
そんなことを考えながら歩いている
死者を飛び越える猫のように
あるいは歩きはじめた老人のように
それは古寺へと続く苔生した山道であり
田植えが終わったばかりの田園であり
ゴミ箱が転がる街の裏通りであり
兵士たちが塹壕に蹲る戦場でもある
呼び止める声が聞こえても振り返らない
どうせ歩き続けるしかないのだから
相変わらず雨は私の細胞を素通りして
水溜まりに次々と新たな宇宙を造る
見上げれば眩しい空白の向こうから
終わりなくそれらは降り続いている
しかし見開いている私の両の瞳には
何時まで経っても世界は生まれない
感覚を統べる王宮をトカゲが
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