春の小川と春の青空/ichirou
 
キの柄でぶった
妹は大声で泣いた
母は慌てて戻ってきた
状況に気づいた母は
ハタキを握りしめていた私の右手を叩いた
私も妹も大声で泣いた

3歳の妹は無口になっていた
よく知らない親戚に預け回されていたために
吃りになっていた

家の中には笑い声はなかった

それからしばらくして
母は毎日妹と歌を歌うようになった
母は歌を歌うと吃りが直ると
嬉しそうに歌う理由を教えてくれた
歌う歌は
春の小川だった

相変わらず
家の中には笑い声はなかったが
いつも母と妹の歌声があった

下の妹が1歳になるころには
もうすっかり母に懐いていた
上の妹は4歳になっても
吃りは直らなかったが
口数が少しずつ増えていった

家の中には
いつも母と妹の歌声があった


公園で手をつないで歌を歌う母と子の上には
青空が広がっている








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