啓典の記憶/2012
く夜には、決まって誰かが戸を叩きに来ます。
戸を叩きに来る誰かは、毎度別の人のようでしたが、カノープがペルディーダのいいつけをよく守っていると、
いつも同じ言葉を呟いて去って行きました。
「ぬうむ、聖月蝕の火祭の晩には。必ず」
それから三月経ち、聖月蝕の火祭の晩がやって来ました。
カノープはいつものように床について布団の中に潜り込むのですが、
遠くから火祭の陽気なお囃子が聞こえて来ます。
聖月蝕の夜、月が南天に輝やいて蝕が始まる時、火祭のもっとも重要な儀式「火刑」が行われます。
夜が更けていくにつれて、お囃子の陽気さが増すのをカノープは布団の中で聞いていました。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)