「雪のせいにする猫」/宇野康平
シャリシャリと雪を歩く靴の音が楽しい
と言ったあの人は溶けて消えました。
晴れて、屋根に積もった雪が溶けてポタ
ポタ落ちています。
むかし、あれは小さなお化けの足音だと
いじわるなおばさんに教えられて小さな
自分は泣いて怯えました。
猫は寒そうな顔を人に見せまいと表情を
険しくして道を横切ります。
そうです。にゃーとも言わず、人に助け
も同情も求めない奴です。
翌日の朝、雪がまだ残っているのを見て、
あの猫を思い出した。
シャリシャリと猫が横切る音が寂しいと
言ったあの人は春を待たずして溶けて消
えました。
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