小雪舞う朝/藤原絵理子
じいちゃんが逝った朝
病室にばあちゃんの姿がない
窓の外は風にあおられた雪
あたしは瞳孔を確認して
お決まりのせりふを吐く
息子の白髪頭が傾く
「独りになったら
都会に行かんならん」
息子との約束
じいちゃんと暮らした
思い出詰まった町
ばあちゃんは離れたくない
看護師がチューブをはずす
すべてを取り去ると
じいちゃんはやっと人間に戻る
間に合わなかったのは
じいちゃんの好きな
おにぎりを握っていたから
ばあちゃんは走ってくる
曲がった腰もそのままに
駐車場を斜めに突っ切る
風呂敷に包んだ
じいちゃんの洗濯物を抱え
おにぎりを入れた袋が雪に揺れる
その姿を見て
息子が声をあげて泣く
あたしは涙をごまかしながら
清拭の看護師に待ての合図を送る
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