冬と蒼紋/木立 悟
 



湖面の霧が
家を描いては壊している
幾度描いても
家のなかに人は居ない


鉄の羽と雪の羽
ついてくる影
角を曲がる影
曇を持ち上げるひとつの腕


光に消えては現われる路地
引きずるような足跡を残し
氷の川をすぎる何か
二重の背中をなぞる口笛


冬が冬に差し込まれ
銀も鉛も蒼になり
根もとを隠す凍木の朱
捨てられた筆に満ちる径


そこに居ないものが増え
指の痛みに降り積もる
燭台のかたちの空白が
空白のまま燃え上がる


曇の前の樹
影の社
水際にひらいた
描きかけの家を測ってゆく


静かに色を変える坂

[次のページ]
戻る   Point(5)