何でもない夕暮れ/ストーリーテラー
少女は対峙していた。
言い及ばぬ甘美な不安が、彼女の足指を落ち着かせなかった。
少女の唇は、危いほど紅く、まだ嵐を知らない。
薄皮を噛み、めくれば、その痛覚の下、求めるように血は滲む。
発せられたいくつかの言葉は、砂漠に降るにわか雨みたいなものだった。
夕日は「何もかもが過ぎ去っていく」そのことを証明してみせようとする。
徐々に藍色のグラデーションを濃くして、少女の影を飲み込んでいく。
赤い唇だけが蝶のように休んでいる。
少年は対峙していた。
手の汗の中には、数千の折り重なった刹那と葛藤が染み込んでいた。
彼の小さな世界は、少女の動作一つで簡単に眩暈を覚えた。
彼は震えながら生命の弦をあらん限り引き絞っている。
紅い蝶は本能の香りに酔って動きを止める。
夕日は山へ隠れて、山頂にそっと少年の勇気をかかげた。
深い藍色が闇にかわる一瞬、夕陽のアーチが一番星に生命を届けた。
何でもない夕暮れに、変わったことは何もない。
血の味や、まして、優しい嵐でさえも。
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