「そして、目を閉じる」/宇野康平
 
前奏の綺麗な歌謡曲が終わる頃、目を閉じると
そこに灰色に溶いた悲しみがあった。

白い、目の裏側にある心の何かをなぞる。思い
浮かぶ母の後姿。

幾度も流れる声は子音は掠れた隣りの精巧な笑
顔。

まるで、空白を好む糸くずのポケット。

影の伸びた夕方の電柱というだけで、公園の中心
で一人、目を塞ぐ少年の涙を誘う。

この街は、人も、電柱も、一人で立っていた。
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