没落/深水遊脚
クビにした男だった 実家で正月に食べきれなくなった餅を 持ち込んでいた者もいた トースターで簡単に焼けて 毎日の返杯で荒れた胃袋には パンよりも餅は優しかった
店からみて裏手にあるコンビニに 野菜と果物がたくさん並んでいるのをみて 同じように働く誰かの胸焼けに同情する 古びた変電所跡が蒸留所にみえて 馴染みの客が語っていた蘊蓄を思い出す 学びたての頃は 正しく伝えようとしていた ありのまま夢のままに 受け止めることも大事だと気づいたのはごく最近のこと 飲まずとも記憶だけで美酒に酔いながら 変電所を眺める 記憶のよい部分だけをカクテルにして
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