新説浦島太郎/keigo
吹に包まれ
頭上を行く鳥たちの鳴き声は鋭く
生暖かいそよ風の運ぶ鬱蒼とした緑の匂いには
めまいを覚えるほどで
まるで全身が感覚器になったようだ
ゆっくりとドアを開けた僕は
思わず息を呑んだ
光の量に圧倒される
外観からは想像できないほどの
館内のあかるさは
正面にあるきらびやかな
シャンデリアが演出したものだろう
両サイドにある螺旋階段は
中央の踊り場で交わり
その上には中世の貴族の肖像画が並んでいる
立ち尽くす僕の前に
二階の踊り場から足早に少女が駆けつけた
ーようこそ、世界の狭間へ
ーここには時という概念はございません
さては竜宮城かなにかであろうか
ーもうあなたは後戻りできないのです。
耳なりと共に
急に寒気を感じ
めがさめた僕は
洗面所へと走り
鏡を見て途方にくれる
目の前にあるのは白髪混じりの
中年男
そしてようやく気づくのだ
ここにいる自分こそが現実であり
少年頃の夢を見ていたに過ぎないことに
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