新説浦島太郎/keigo
白樺並木をぬけ
丘を登りきったところにある古びた洋館
いつも裏手にある通学路を通っていたものだから
僕はただ
丘のてっぺんにかろうじて見えるその館の
二階窓を仰ぎながら
色々と想像を巡らしていた
例えばそれは
家に閉じ込められたお姫さまだったり
広い敷地内の一室で起る密室トリックだったり
あるいは毎日まずそうにフルコースを咀嚼する
会話の少ないハイソな家族であったり
とにかく
その蔦のからむ石造りの館は
厳かとか
格式高いとかを通り越し
不気味な空気を醸し出していた
今
僕は勇気を出して
その館の前に立っている
折しも
早春の息吹に
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