コップ/末下りょう
 
ゃんが繁華街で暴行にあい左眼の視力がまだ戻らないと言った。僕はなにを言えばいいのか分からなかった。加害者たちはまだ捕まってないんだとお兄さんは言って、でもあいつも悪いんだよと小学校の校庭に埋まる不発弾みたいに冷静に言った。

カウンターにはカラのビール瓶とピスタチオの殻が散らばり、木目のカウンターに意味のない数字の羅列を鍵で刻んで僕は店を出た。お兄さんはまたなと言ってくれた。ネオン街の人通りはまばらで、タクシーだけが道路にひしめいていた。

僕はコートのポケットに手を入れて白い息を吐き、パトカーを探した。警察官を探した。正義とか暴力について話したい気分だった。警察24時の酔っ払いみたいにイチャモンをつけたい気分だった。だから僕はネオン街を取り締まる交番に足を向けた。

いまスガちゃんの左眼はなにを見ているのだろうか想像しようとしたけれどスガちゃんの顔がうまく思い出せなくて、想像するのをやめた。スガちゃんの左眼から涙は流れるのか想像して、それもやめた。酔い覚ましに一杯のお茶を交番の警察官が出してくれれば、それだけでもういいとすぐに思いなおした。

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