夕暮れの頃/嘉野千尋
 

  夕暮れの図書館で
  あなたは時間を忘れて頬杖をついていましたね
  わたしは夕焼けに見惚れるふりをして
  ずっとあなたを待っていたのですよ
  あなたがわたしを思い出すまで
  あなたの横顔はわたしだけのものでした
  そんな時間の積み重ねさえ愛しかったのです

  背伸びをしたわたしに
  本を開いてくれたのはあなたでした
  あの出会いのときからもうずっと
  いくつもの夕暮れを
  焦がれるほどの夕暮れを
  大人びたあなたのその、横顔のそばで

  あなたは初めてわたしに孤独を語った人でした
  そして満ち足りるという言葉の意味を教えてくれた

  夕暮れの最後のひとすじが
  静かにあなたの頬の上から消えました
  ふれればきっと温かいのでしょう
  さぁ、そろそろわたしを思い出してください


  夕闇はなおいっそう優しく
  


  その後の沈黙を、だれも知らない





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