アンコール/千波 一也
 

もう
あの船の行方なら
わたしの胸に描かれるしかありません

その
描きようの総てが許されるわけではなくて
それでも
描いていくしかなくて
ひとり
色をもたない潮風に
抱かれています


あなたが言葉にしなかったことも
あなたが
言葉にしたかったことも
こぼしてしまった
わたしです

それゆえ
波間にみえる一瞬は
もっとも近いかなたです


いつか
あなたを忘れる日が来たならば
それは悲しみの始まりなのだ、と
さらさらに渇いた砂つぶが囁きました

日付をもたないものたちが
結末めいて、音を立てました


さようなら、では
あまりにも易しすぎて
あまりにも整いすぎてしまいます

だからといって
代わりが見つかるはずもなく
ただただ身を置くばかりです

答などくれるはずもない
潮騒のかたわらで
ちぎれた時を
呼びながら







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