縄/春日線香
 
曇り空から縄が垂れている
どこに続いているのか先は見えない
午後になると近所のものが集まってきて
突如現れたこの縄について協議しはじめた
一人がおれが片付けてやると言って前に出る
触らないほうがいいと皆は止めたが
こういったあやかしには毅然と立ち向かうべきなのだと
遠慮なしにぐいぐい縄を引く
土から牛蒡を引き抜くようなものだと笑いながら
臆病者どもめと笑いながら
しかしどんなに引いても縄は尽きない
だんだんと日は暮れて暗くなってくる
男も焦ってきて いっそうがむしゃらに引く
と 急にものすごい力で縄が上に引かれ
男ごと空へ昇っていってしまった
しゅるしゅる という音とともに
わあわあ という声とともに
しゅるしゅる わあわあ しゅるしゅる わあ
皆が呆然と立ちすくんでいる間にも
みるみるうちに縄はすっかり空に引き上げられ
それきり男の姿も見られなくなった
戻る   Point(3)