地図/葉leaf
を注ぎ、一気に飲み干した。私は地図の外で、ひたすら祈っていた。酒は祈りの道具である。どうにもならない無の地点で、素裸になって大いなるものへと思いを捧げるのが飲酒という行為だ。酒がせめてもの灯となり、この地図無き地点から再び地図が始まるように、私は酔っていった。
すると、私の心身は何か不思議な音で満たされていくかのように感じられた。なるほど、私はただ台所の椅子に座り、テーブルにグラスを置いている、それだけの空間の中に居るのかもしれない。だが、私は酩酊と共に、夜の音が自分を満たしていくのを感じた。それは月明かりの山の渓流の音かもしれないし、秋の夜を満たす虫の音かもしれない。さらには、私を過去に作り出した無数の地図へと誘ってくれる導きの笛の音なのかもしれない。昼間の外光が窓越しに雑然とした台所を照らす中、私はひとり夜闇の荒野をさまよいながら、電光のように現れては消える無数の地図に照らされていた。大学受験の地図、文学の地図、哲学の地図、物理学の地図、数限りなかった。そして、その夜の底を流れ、地図たちを深いところで組成している、あの時間が降り注ぐ音を一身に聴いていた。
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