電脳と死の雨/hahen
ぼくたちは雨を防ぐために、濡れないために、他のものを濡らすしかない。ぼくたちの代わりに濡れるものがあって、ぼくたちは乾いたままでいられる。
墨を磨ったみたいな色の雨が降る。それは夜の色と同調して、一段と辺りが暗くなる。自分が濡れる代わりに携帯していた傘を濡らしていた。路面がつやを放つ。追い立てられて逃げ込んで来たみたいな申し訳なさそうな雨が降る。居場所がないのでちょっとだけここにいさせてください。すぐにまたどこかへ飛んでいきますので。雨足が弱く、今にも最後のひと滴が落ちてきそうだと思う。でもぼくは雨が上がる瞬間をこの目で見たことがない。
遍く濡れそぼっている路面に一つの異世界がある。ぼく
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