あのころ/草野大悟
たらと
サンドバッグをたたいた
ボクシングで汗を流すこと
油絵具をこねまわすことが
俺の毎日だった
ある日
誘われるままに
デモに出かけた
フランスデモを繰り返し
県庁前に陣どり
シュプレヒコールを叫び続けた
濃紺の機動隊が
雨の中に黙々と立っていた
国家権力の権化と思えた
そして
一年が過ぎるころ
あれほど熱気を帯びていたキャンパスは
ものの見事に
静寂を取り戻した
後には
したり顔の教授たちと
明るい顔した新入生と
行き場を失った闘士たちが
残った
その時 俺は思ったのだ
この国では
マルクスとレーニンの愛児は
まだ子宮にさえ
着床していないと
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