あのころ/草野大悟
 
午前一時
俺のあのころが
反転する

ベレー帽かぶった美知子が
学生集会からとび出し
目の前に現れる

上気した頬に そばかすをちらし
瞳をキラキラ輝かせて
俺にささやきかける

自分自身を
生きなさい と


昭和四十四年
大学紛争の嵐

田舎の国立大学にも
それは吹き荒れていた

マイクロフォン片手に
英雄たちがまくしたて
入学したての俺たちノンポリは
なす術もなく揺り動かされていた


子供のころから
魚が好きだった
だから当然のように
水産学部を選んだ

やっとの思いで入学したというのに
三カ月以上講義がなく
腹を立てた
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