冬潮/
八布
江ノ電鎌倉高校前駅と
腰越駅とのその間で
窓という窓が突然
ぱっと明るい海となり
ゆるいカーブの水平線に
乗客はみな取り囲まれてしまうのだった
すばやく走る波の線
空の始まるところまで
冬潮ははるかに続き
昼の車両は声のさざなみ
旅人の切るシャッターの音
で一瞬にぎわい
そのあと不思議な沈黙が
大きくあかるい水への敬意が
しずかに空気を伝うのだった
時計を見ればちょうど正午
重なり合う時計の針にも
潮の香りがあるのだった
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