ネルドヴァ −BWV534/藤原絵理子
城に上っていく石畳に夕陽が反射する
あなたがこの瞬間を見たのはいつの頃?
使い古したカメラのフィルムに残されていた
あなたの鼓動が聞こえてくる
あなたから聞いたピヴォの名前にひかれて
日暮れの街角でホスポダに入れば
幸せそうにさざめく人の群像に
あなたと似た後姿を見つけて鼓動を早める
清潔で明るい先端医療の病室に
あなたをひとり残したまま
あたしは自分の世界に戻ってきた
グレーゴルを見捨てたザムザ一家のように
「夕陽の写真がうまく撮れない」と言った
あなたの娘も夕陽の写真はうまく撮れない
戻る 編 削 Point(3)