北の亡者/Again 2014睦月/たま
冬場だけ開放された木造の小屋である。数パーティは入ることができるが、もちろんコンロ持参の自炊になる。小屋の入り口は落とし戸になっていて、小窓はあるがほとんど外の景色は見えない。薄暗い入り口近くにトイレがあって便器が血に染まっていた。たぶん、血尿だろう。小屋の中に遭難者がいるはずだった。どこで滑落したのだろうか。
翌日早朝、私は避難小屋の落とし戸を押し開け、上半身をねじって空を見あげた。するとそこには信じられないものが、朝日を浴びて待ちかまえていたのだった。
新田次郎の小説「孤高の人」の主人公加藤文太郎は実在の登山家である。その加藤文太郎が槍ヶ岳の北鎌尾根で遭難する日の朝、私と同じように
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