北の亡者/Again 2014睦月/たま
 
、九月に入ると週末は六甲山系の岩場にテントを張って、朝早くから垂直に近い岩壁を、一二本爪のアイゼンを付けて登る。つまり、冬山の氷壁を登る訓練になるのだが難しいのは下りだった。斜度四五度ほどの岩の斜面をまっすぐ前を向いて下る。硬い岩盤と鉄のアイゼンの爪は馴染まないから、腰を落として膝を曲げてガニ股にならないよう、つま先はまっすぐ真下に向けてゆっくり下る。高度なバランス感覚を要求されるが、背には一〇キロ余りのザックを背負って負荷をかける。二〇メートルほどの斜面を何度か往復すると膝が笑ったが、厳冬の北ア縦走には欠かせない訓練だった。

 その頃、私が所属していた社会人山岳会は、会員数、十名ほどの小さ
[次のページ]
戻る   Point(24)