「血脈の無い花」/
宇野康平
ボケに苦しんだ子供のように、泣いた。
最後の、終電の響きがコップを腹を抱えて笑っている冴え
ない酔っ払いの中年の男のように震わせる。なにがおかし
いのか。いや、酔っている、つまらない男は私だ。
終電が過ぎて、秒針の音と私の鼓動だけが口に広がった血
の味がする孤独を癒すのだろうか。
それは、なんと酷く悲しく、寂しい。
男はそう呟きながら、冷たい、造花になった女の横に入り、
瞼を閉じた。
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