「血脈の無い花」/宇野康平
電車の通る規則的なリズムに心臓の動作を同調させながら
飲む国産のウィスキーは氷が混じる。
大切な人を失った瞬間を覚えているかい。と、尋ねたとき、
女はベッドの上で気を失っていた。
近くを過ぎていく電車の残響はテーブルに置いた、女の口
紅の痕が付いたコップを震わせる。その、口紅の痕をなぞ
るように舌で舐めたとき、男の目に映ったのは女の好きだ
った名も知らぬ精巧に造られた造花であった。
夜の12時を知らせるアラームが響いて、既に脈を失った女
の精巧に造られた形の良い唇に接吻をする。その瞬間に私
の大脳皮質は氷解して北極点の彼方、女の股の間から出る
液体の温度、時差ボケ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)