「時として、中絶のように」/宇野康平
それはまぎれもなく、悪夢であった。
置時計は3時を指していた。
接吻で女は孕んだ。接吻の相手は鏡に映った自
分自身だというのに。
本棚の中で一番高価な辞書で「妊娠」を調べる。
覚めぬ夢にもまれて心臓は胸から股を通るよう
にしてドロドロに溶けていく。
これはスプラッター映画を見過ぎた男の夢だ。
と残り少ない日記に綴る。
本棚の中で一番高価な辞書で「中絶」を調べる。
コツコツと秒針の音が振動する。八畳程の部屋
に時計四つは多過ぎるというもの。
明日の朝、y■hoo知恵袋で、自分で自分を妊娠
させた場合には中絶できるのかどうか質問しよ
う。と決めて、女は瞼を閉じた。
置時計は5時を指していた。
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