獏/春日線香
枕の下に包丁を入れて眠るとよい
もしも悪夢を見たのなら
その時はすかりすかりと捌いてしまって
うすい刺し身のようにするとよい
油まみれの水たまりのように光るそれを
やってきた男は食べるだろう
用意されたものは残さず食べるというのが
昔からの獏の流儀であって
それは悪夢であればあるほどうまいのだ
にがくて冷たい夢を腹いっぱい食べさせてやれば
男は涙を流して喜ぶだろう
目を細めておまえに愛を囁くだろう
そうしたらもうしめたもの
いつか動けないほど肥えたそいつを
おまえは頭からぺろりとたいらげてやる
悲鳴も漏らさない海の底に沈めてやる
その日のために
おまえはもっともっと用心せねばならない
こうしてわたしが言い聞かせるのも
おまえの幸せな将来のためなのだよ
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