うけいか/……とある蛙
 
忘れている何かの先に

頭の狂ったマンドリン弾きが
丘の上に座ってじっと
坂の下を見ている。

その男の着ているコートは
薄茶色のバックスキン
しかも、足元は合成皮革のハッシュパピー

その男の被っている帽子は
不思議な色の千鳥格子

あたりは十分明るかったが
男の背後に日が昇る
朝日が光の矢を放って


丘の上を見上げる我々は
ひれ伏して
頭の狂った男の演奏を聴く

演奏を聴いている振りをする。

我々の足元には
有象無象の巨大なゾウリムシ

誰かが恐怖の叫び声を上げる
演奏が遮断すると
叫び声の主は
悪意の塊となった
黒い我々に殴られ蹴られ押し潰され

苦々しい朝は
マンドリンの軽快な伴奏に乗って
訪れる
「丘をこえて」の軽快な前奏
そして、戦場まで 
戻る   Point(5)