うけいか/……とある蛙
忘れている何かの先に
頭の狂ったマンドリン弾きが
丘の上に座ってじっと
坂の下を見ている。
その男の着ているコートは
薄茶色のバックスキン
しかも、足元は合成皮革のハッシュパピー
その男の被っている帽子は
不思議な色の千鳥格子
あたりは十分明るかったが
男の背後に日が昇る
朝日が光の矢を放って
丘の上を見上げる我々は
ひれ伏して
頭の狂った男の演奏を聴く
演奏を聴いている振りをする。
我々の足元には
有象無象の巨大なゾウリムシ
誰かが恐怖の叫び声を上げる
演奏が遮断すると
叫び声の主は
悪意の塊となった
黒い我々に殴られ蹴られ押し潰され
苦々しい朝は
マンドリンの軽快な伴奏に乗って
訪れる
「丘をこえて」の軽快な前奏
そして、戦場まで
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