交響曲傾聴/白雨
 
重さに耐えかねるチャイコフスキーが
大理石像を床に投げる
放物線を点線で書き加える
それは陳列された博物誌で
ガラスケースが優美な眠りを誘う
このチャイコフスキーは一冊の書物に過ぎぬ
書物とは紙とインクのことで
人やもののことでない

僕は街にむかって歩きはじめる
忘れられない過去をメモ書きで満たし
道端の垣根の下にかくす
ダークグリーン ヴェルヴェット
3時限目のバッハ
西木屋町 下ル

ずっと彷徨える眠りの少年
ダスキー パール
森に咲く白い粉
苦しいほど深いところにあるおもりが
水風船のように浮かんでくる
それらをまた手で押しこんで
覚醒をやりこめ
[次のページ]
戻る   Point(1)